デリバティブ偏愛家の日記

銀行の運用部門のお仕事 第4話「何かと入り用な公家には金利スワップを」

かなり間が開いてしまったが、銀行で取り扱うデリバティブについて書いていこうと思う。前回は具体的な一日の流れについて触れたので、興味のある方は是非。

銀行の運用部門のお仕事 第3話「とある行員の(リアルな)日常」

ただ、もう筆者の名前から分かるようにデリバについて書き始めるととんでもない文字数になりそうなので、複数回に分けることにする。私が取り扱っていたデリバは大きく分けると以下の3つになる。

  1. 円金利スワップ(顧客の金利リスクヘッジ)
  2. クロスカレンシースワップ(当行の資金調達)
  3. 為替オプション(顧客の為替リスクヘッジ)

今回は1の円金利スワップについて書いていく。これだけでも長そう…そしてなかなか面白くないテーマになりそう…

金利デリバティブの概要

種類

まず先に種類を。

  • 金利スワップ:何かしらの金利同士の交換を行う
  • スワップション:金利スワップのオプション
  • キャップ・フロア:変動金利のオプション

で、金利スワップにも種類があり、メジャーなものだと、

  • プレーンバニラスワップ:単一通貨での固定金利と変動金利の交換
  • ベーシススワップ:異なる変動金利同士(LIBOR対TIBOR等)の交換
  • クロスカレンシースワップ:異なる通貨での変動金利同士の交換

そもそも”変動金利”って何よ、という話になるので、そこも触れる。

 

変動金利とは

基本的にはインターバンクで短期の資金調達を行う時※に払う金利で、これが日々需給や他の金利の影響で変動している。最も有名なのがLIBOR(London Interbank Offered Rate、読み方はライボー)で、これはロンドンの銀行間で資金調達する時に払うレートで、複数の銀行からの報告を集計したもの。なので、「取引所で約定した値」のような類のものではない(今は集計、発表はインターコンチネンタル取引所が行っているが、別にそこで取引されている訳でもない)。

※あまりイメージが湧かないかもしれないが、銀行は毎日資金の余剰ないし不足が発生している。具体的には「たまたま大口の融資を行った」「大量の入金があった」等で余った資金は他行に短期で貸付け、逆に不足は短期で借りる、というオペレーションがインターバンクでは日々行われている。そこら辺は資金繰りの部署の担当なので若干私の担当ではないので情報は少ないが…

ここでは色々な通貨と、それぞれ貸出期間に応じて金利が発表されているので、例えばドル3ヶ月LIBORと言えば、「ドルを3ヶ月調達する時のコスト」となるし、円6ヶ月LIBORであれば「円を6ヶ月調達する時のコスト」となる。これが基準値となり、社債や企業向け融資において、「ドル3ヶ月LIBOR+n%」というように差分で金利を表示することが多い。

ちなみに東京インターバンク市場でも同様に円の金利を発表しており、それがTIBOR(タイボー)と呼ばれる変動金利。円に関しては基準となるのは6ヶ月LIBORが主流で、一部TIBORを使うケースがある、という感じ。

 

変動金利の重要性

銀行にとって変動金利は非常に重要な存在だが、預金者等から見れば何のことやら、という状況。しかしこの変動金利、我々にも密接に関係している。

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上図は一般的な銀行の資金調達と運用の関係。銀行はインターバンク市場や預金者から、金利α%を支払うことで資金を調達し、企業や何かと入り用な公家に金利β%を要求することで資金を運用(貸付)する。この時αとβの差分が銀行の利益となる。ここで銀行サイドからすると理想的なのは、α、β共に固定された数値ではなく、常に「α + γ = β」というような「調達金利に一定幅γを上乗せすることで貸出金利を決定する」ビジネスモデルである。寿司屋で言うところの、「鮪一貫2,000円(固定)」よりも「鮪一貫時価(当日仕入れた価格+1,000円)」の方が寿司屋側がリスクを負わなくて済む形に似ている。例えば会社員であれば、ある程度給与が将来にわたって予測できるので、自分が借りる側であれば固定金利の方がありがたいが(将来のキャッシュフローを計算できるので)、銀行側としては調達、運用どちらかに固定金利が入ると金利リスクを負うことになる。

また、預金金利(預金で調達する場合のα)は、インターバンクでの調達金利とある程度連動しており、昨今の悲惨な預金金利は上記で説明したLIBORやTIBORの低下の影響をもろに受けている(無論βも相当下がっているが)。

 

プレーンバニラスワップとは

概説

実は金利スワップに関しては先日軽く他の記事で触れていて、今回はそれを流用したい。

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ここでは陶濬Xと二階堂盛義Y間で金利の交換を考える。期間は10年とする。Xは変動金利であるドルLIBORを10年間Yに払う(LOBIR自体は日次で変動するが、3ヶ月に一度その時の発表されている金利を支払う)。逆にYは固定されたn%という金利をXに3ヶ月に一度の頻度で10年間払う。実際に払い込む金額は、想定元本と呼ばれる金額があり、それに金利を乗じた額となる。

さて、これだけだと「この二人は何が楽しくて口を開けてるの?こんな取引を?」となるが、腹の内では、

  • X:「変動金利は今後下がるだろう。そうなれば固定で払い続ける二階…いやYは損となる。」
  • Y:「変動金利?上がるに決まってんじゃん。愚か者である陶…ではなくXに固定で低い金利を払い続けるよ。」

このような相場観がある(ヘッジ取引のケースも多いが)。結局は変動金利がどうなるか予想するゲームという訳(この話にはまだ続きがあるものの)。

 

nはどう決まるのか?

で、ここで当たり前のようにポイントとなるのは「nはいくらなのか」という話だろう。そこでX目線で別の取引を考える。

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  1. Xはインターバンク市場から、LIBOR金利を支払うことで資金を調達する(借り入れ金利がLIBORと同額の借金とほぼ同義)。
  2. Xは借り入れた資金を元本に、満期10年の米国債を購入。
  3. Xは米国債の利子である年m%を固定で受け取ることが出来る。

この取引、よく見ると最終的には調達に払う変動金利と、国債から得られる固定金利の交換になっていることにお気付きだろうか?そう、Xは変動金利(LIBOR)が今後上がらないことを見越して変動金利を払って、10年間固定金利を受け取る判断をしており、これは先の金利スワップと同じキャッシュフローになる。

ということは物凄く雑な議論をすると、先のn%と今回のm%は同値でないといけない(裁定の機会が生まれるので)。nのことを「スワップ金利」ないし「スワップレート」と呼ぶが、これは一応国債の利回りと一致するはずである。

ただし本来そうはいかない。ここではYが10年間破綻することなく律儀に固定金利を支払い続けることが想定されているが、二階堂盛義ファンの皆さんには申し訳ないが、米国債と比較して少なからず相対的に高いデフォルトリスクが存在する。となると、このスワップ金利は国債利回りより信用リスク分高い、という説明が出来る。

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上のチャートは米国債10年利回りと、ドルの10年スワップ金利の推移。確かに非常に近似した動きをしているが、やや差異がある。

 

スワップスプレッドの推移

…ただ、スワップ金利が信用リスク分上乗せされるのであれば、スワップ金利-国債利回りで計算されるスワップスプレッドは恒常的にプラスで推移しないとおかしい。一応スワップ取引の主体は銀行や企業なので二階堂盛義という個人よりは信用リスクは低いが。ただ、チャートを見るとそうでもない。

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これは2000年末くらいからのスワップスプレッド(5Y、10Y共に左軸)と、10Y金利(右軸)の推移であるが、普通にスプレッドがマイナスに突っ込んでいるケースがある。国家よりも企業の方が信用リスクが低いという意味不明な状況になっているが、この原因には諸説あるようで、

  • 国債は発行量が決まっているので、市場の流動性に偏りが発生する可能性があるのに対し、金利スワップ取引は理論上無限に可能なので需給の違いが引き起こす
  • 一部の債券のヘッジに金利スワップを使うケースがあり、それにより国債対比で歪みが生まれる

ちなみに円債だと10Yのスワップスプレッドが日経平均と相関係数が高い、という話がある。これまた原因が諸説あるが、日経平均を参照するノックアウト条項付き債券(日経平均リンク債)のヘッジに金利スワップが使われており、日経平均を見つつヘッジを行うのでスプレッドが連動する、というもの。

 やや脱線するが、このスワップスプレッドそのものの上下に賭ける取引にアセットスワップというものがある。自分の部署でも行っていたが、上記のように日経との相関がやや高かったりするのでポートフォリオ内のリスク分散として有用だったかは不明。

 

トレーダーは何を見るか

当初の話では「短期の変動金利がどう変化するか予想するゲーム」だったはずが、結局は「ほぼ国債利回りと連動するが、その差異に注目するゲーム」となっている。なので、日中にメインで見るのは国債の先物価格。スワップレートは市場で約定したものをBloomberg等が集計したものが配信されているが、あくまで取引所取引ではなく相対取引なので、そのレートで約定できるかは不確定(何より相手側の信用リスクをどう見積もるかでも変わる)。

 

リスクヘッジとしての金利スワップ

さてここからは実際の業務に関連する話。上記にあるように、銀行側からの融資は基本的に「変動金利 + a%」という形で行われる。このaは融資先の信用リスクに応じて変化する(審査部等で判断されてる模様)。勿論、変動金利でそのまま借りる企業もいるが、中には「固定金利にして欲しい」という顧客もいる。その時登場するのがこのプレーンバニラスワップである。

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また菊亭氏に登場いただく訳だが、まず水色枠の融資が行われるが、ここに更に菊亭氏の金利リスクヘッジとして緑枠の金利スワップを組む。金利スワップ側の変動金利(菊亭氏受取)は融資側の変動金利の利率と完全に一致させるケースが多い。この取引のお蔭で菊亭氏は資金を固定金利b%で調達できる。

銀行はこの取引で固定金利を支払う側になるので、金利リスクを負うことになる。なので、銀行は逆サイドのスワップ取引を行ったり、国債先物等でリスクを管理していく。

で、ヘッジニーズに応えるこの取引での銀行側の収益源は、主にbを市場実勢よりも高く要求することにある(菊亭氏としては少し高い固定金利を払うことで金利リスクを排除する形になる)。

細かい話になるが、元々が”融資”なので、定期的に菊亭氏からは融資した金額の一部が返済される。なので、金利スワップ側も返済計画に応じて想定元本が一定の速度で減少するような形となり、こういったスワップを「アモチゼーション付きスワップ(略してアモチ付きスワップ)」と呼んだりする。顧客の融資絡みのスワップは基本的にアモチが付いているものが多く、たまに返済額が初回だけ大きいような特殊な融資案件だと、スワップ側もそれに綺麗に合わせて想定元本が変化するように組む必要が出て来る。凄く面倒臭い。ちなみにそういった”オッド取引”は証券会社から高い取引コストを吹っ掛けられ易くなるので本来望ましくはない。

私のいた銀行ではこういった顧客絡みのデリバは都度フルヘッジしていたので、営業部隊から案件が回って来て、それをインターバンク市場に繋いで「bはいくらなら出来るか?」とプライスを集め、営業部隊に返していた。営業さんはまたそれを参考に顧客と擦り合わせ、最終的に実行するとなると我々もインターバンクでヘッジを行う、という感じ。営業さんとは「こういったスキームの方が取引コストが安くなるので顧客への提示プライスも良くなるのでは」みたいな話をしたりする。確かに彼らは別に日々証券会社等と直接やり取りをしている訳ではないので、そういった話は我々の方が詳しい(逆にそもそもどういったリスクをメインにヘッジしたいのか、という話は顧客と直接対応していない我々には分からない)。運用部門にいるとビジネスに直接触れる機会はほぼ無いので、貴重な機会なのかもしれない。

さて、次回はクロスカレンシースワップか…

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