デリバティブ偏愛家の日記

クソ真面目にバイナリーオプションに取り組む 第1回

どうも、デリバ亡者です。

完全に個人的な感想ですけど、怪しい情報商材屋以外でバイナリーオプションをやっている人を全然見かけないんですが、業界としてどうなってるんでしょう…誰のための自主規制だったのか…

ということで今回は真面目に金融工学等を用いてバイナリーオプションの戦略を考えます。テクニカルを使った一般的な戦略に関しては、普通にFXでやれば?と思うので、あくまで”オプション”であることに主眼を置いていきます。

大きな流れとしてはバイナリーオプションそのものを知る→敵(業者)を知る→戦略を立てるという感じで行こうと思います…が、書いていてあまりに長くなったので二回に分けます。

<目次>

バイナリーオプションの基本的な性格

そもそもどういう存在なのか

「バイナリーオプション」という名称は個人投資家には馴染みが若干あるかと思いますが、銀行にいた時は「デジタルオプション」と呼んでいました(結果が「ペイアウト」か「何も無し」のデジタルだから、というのが由来)。後述しますが損益曲線が極端なので、単体で取引することはほぼ無く(特に企業等のヘッジ取引において)、他のオプションと組み合わせることで変則的なPLを実現するくらいのオマケ的な存在です。それを単体で取引してしまうのがこの商品です。

理論価格はバニラ同様にブラック・ショールズ・モデル(以下、BSモデル)で算出することが出来ます。算出法は後述します。また、これ以降の分析は基本的にBSモデルを使っていると考えて下さい。

 

大雑把なバニラオプションとの違い

日経平均オプションのようなバニラオプションと違い、バイナリーオプションの最大の特徴はDeltaが満期に向けて無限大になることでしょう。これが射幸的なエキサイティングな商品となっている要因です。金融工学的にはバニラの損益曲線を原資産価格で微分するとバイナリーの損益曲線となる、という性質を持っており、つまるところバニラの原資産価格に対するDelta変動=バイナリーの原資産価格に対するPL変化となります。意味が分かりませんね。後でグラフで説明します。

早速脱線ですが、個人的にはBSモデルを理解する上で、バニラよりバイナリーの方が簡単な気がします。バイナリーだと単純にCallなら権利行使価格(以下、Strike)を超えたらペイアウト発生なので、Callの理論価格はStrikeを超える確率×ペイアウト金額で計算できます。

因みに今回説明していくのはラダーのヨーロピアンオプションで、レンジオプションやワンタッチは若干話が変わります。

 

単一パラメータ変化に対する分析

以下で特定の銘柄を定義して、バイナリーの性質を一通り見ていきます。いきなり複数パラメータ(原資産価格と時間等)を動かすとカオスになるので、段階的に増やしていきます。

  • 原資産:USDJPY
  • 種類:Call
  • Strike:120円
  • 直近の原資産価格:120円
  • 残存時間(満期までの時間):2時間
  • ペイアウト金額:1,000円
  • 金利:残存が短すぎるので0扱い

 

原資産価格変化とPremiumの関係

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残り満期2時間の時点で、今この瞬間に原資産価格が動いたらPremiumがどう変化するか、というグラフ(別に今119.70だとしても形状は同じだが)。

Strikeである120円で理論価格は500円で、そこから上ると当たり前ですがPremiumは上昇。120円より遥かに高い水準ではほぼペイアウト同額の1,000円になります。

 

※参考 バニラオプションの場合

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バニラの場合、CallであればStrikeを超えれば超えるだけひたすら利益になるので、途中からほぼ先物化します(別のファイルから持ってきたので残存が異なるので、縦軸の数値は気にしないで下さい)。

 

原資産価格変化とDeltaの関係

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バイナリーの場合、ATM(At The Money=原資産価格とStrikeが同値の状態)近傍ではDeltaがかなり大きくなります。国内業者のHPに「FXのヘッジにも」等と書かれていたりしますが、バニラ対比でDeltaが凄まじい動きを見せるので、とてもではないですがFXのヘッジにはなりません。というかFXでヘッジするのも大変なレベルの代物です。これは後述します。

 

※参考 バニラの場合

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バニラの場合、Deltaは最大で1(つまり先物と同値)となります。このグラフ、見覚えがあるかと思いますが、最初に出したバイナリーの「原資産価格変化とPremiumの関係」のグラフとほぼ同じです。この数値にペイアウト金額をかけるとバイナリーの理論価格になります。これが上に書いた、「バニラの原資産価格に対するDelta変動=バイナリーの原資産価格に対するPL変化となります。」の意味するところです。因みにバニラのGammaのグラフはバイナリーのDeltaのグラフと同じになります。まあこの関係を知っても1円も収益には繋がらないんですがね。

 

原資産価格変化とGammaの関係

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バニラでGamma Long(相場が動くことに賭ける取引)のポジションを作ったりする場合に重要なGammaですが、バイナリーだとかなり歪な形状となります。ポイントはほぼVegaでも同じ形状になる点。これは後で使うので覚えておきましょう。

上にも書いた「バイナリーのデルタヘッジは大変」という話ですが、これを見ると分かるように、例えばUSDJPYが119.80の時にGamma Longしたつもりが、ATMより上の120.10に上がるとGammaが負となって Gamma Shortになっている、という事態が頻発します。単純に相場が動くことに賭けるのなら、下手にバイナリーにデルタヘッジをかけるのは得策では無いです。

 

複数パラメータ変化に対する分析

今度は時間経過の概念を加えます。オプションでは重要な概念ですが、時間経過=ボラティリティ低下と同義です。逆に言えばボラティリティ上昇=残存時間延長(どんな展開だよ)となります。なので時間経過の影響を理解出来れば、ボラティリティ変化に対する影響も自ずと理解出来ます(結果が同じなので)。

 

原資産価格変化と時間経過、Premiumの関係

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水色が残存2時間の状態で、紺色が残存30分の状態です(ボラティリティは一定)。棒グラフは両者の差分です。ポイントは、

  • ITM(In The Money=原資産価格がStrike以上の状態):当初120.10でそのまま120.10だとしても200円近くPremium上昇
  • ATM:相変わらず500円
  • OTM(Out of The Noney=原資産価格がStrike未満の状態):当初119.90でそのままだとしても200円近くPremium下落

複雑になってきました。いや、本当はここからが楽しい。バニラの場合、時間経過はCallだろうがPutだろうが、ITM、ATM、OTMどこの水準だろうが確実にPremiumの下落要因ですが、バイナリーの場合、ITMだと上昇要因になります。つまり、バイナリーのITM買いはバニラの売りに近い「相場が動かないこと賭ける」側面がある、ということです。オプションの買いなのに。そう、オプションの買いなのに。

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奥行きの軸(Y軸)がおかしいですが、残存時間として3Dでプロットしたものです(時間経過で奥に進む)。最初は比較的なだらかな斜面だったのが、最終的に断崖絶壁になるイメージ。

 

原資産価格変化と時間経過、Deltaの関係

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こちらも水色が残存2時間の状態で、紺色が残存30分の状態です(ボラティリティは一定)。Premiumよりはシンプルな動きですが、ATM近傍ではDeltaが倍近くになっています。満期5分前まで待つと更にここから2倍以上の10超えとなり、0.5銭程度の変動でPremiumが50円以上変化するという祭のような状態になります。この時間経過によるATM近傍のDelta上昇がこの商品の射幸性の高さであり、ヘッジの難易度を極端に上げる要因でもあります。

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相変わらずY軸がおかしいですが。ATM Deltaは満期にかけて急速に極大化します。逆にATM以外は段々0に近づいていく形。

 

原資産価格変化と時間経過、Vegaの関係

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先程はGammaを説明しましたが、今回は似て非なるVegaの方を。Vegaのポイントは最大値、最小値は時間経過では変わらないものの、最大、最小となる原資産価格の水準が変化する、ということです(上図だと最大値となるのは当初119.80→119.90に変化)。自明ではありますが、先程の時間経過で最も大きくPremiumが変化する原資産価格の水準は、ここでのVega最大値となる原資産価格の水準と同じです(差分のグラフがVegaのグラフとほぼ同じ形に)。

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カオスですね。これは2Dの方が分かり易い…時間経過でATM近傍に山と谷が接近していくイメージです。

 

国内業者のバイナリーオプションについて

国内業者の特徴

金融先物取引業協会が策定した自主規制ルールに基づいて商品設計を行うため、どこも似たような取引ルールになっています。

www.ffaj.or.jp

ポイントは満期がほぼ2~3時間という点。実は唯一最長1年のバイナリーを出している業者があったのですが、さっき見たら廃業することになってました。対顧客損益の月次開示を見る感じではひたすら負け続けたようですね笑 気になるのは最長1年満期のオプションを持っていた場合、そのポジションはどうなるのか…

順調に脱線しました…業者はプライシングモデルを各社で決める、とのことですが、軒並み理論価格(Midに使う)の算出にはBSモデルを使っているようです。

これらのポイントを踏まえた上で掘り下げます。

 

オプションのヘッジ市場が存在しない

業者は顧客の取引によって逆のポジションを持つ訳ですが、当然ヘッジ取引を考えます。Deltaに関しては先物やスポット取引で多少はヘッジ出来ますが、前述のように満期に向けてATM近傍のDeltaが極大化するので、律儀に頻繁にヘッジ取引をすると満期直前にドッタンバッタン撃ちまくることになり、満期直前では非効率的です。

更に問題なのがGamma、Vega、Thetaというオプション固有のリスク要因で、これらはオプションでしかヘッジ出来ません。株価指数であれば、日経平均オプションだと満期まで最短のWeeklyオプションがありますが限界集落化しており、為替だと一応オーバーナイト(翌日物)が存在するものの、それでも最短で満期まで1日はあるので、残存時間が異なるオプションでのヘッジは大して意味が無く、最早呑むしかない状態。

 

ボラティリティは業者が決め打ちするしかない

オプション固有リスクに関してヘッジ方法が無い→そもそも参照する市場も無いので、業者がバイナリーの理論価格を計算するのに使うボラティリティは、業者が自ら決めるしかない状態です。

機関投資家向けにやっているような証券会社では、一部の特殊なデリバやニッチな債券で参照する市場が無いから自分でプライシングすることはありますが(銀行の様な投資家サイドでもたまにある)、FXだとレートは銀行からもらい、CFDは先物価格を参照し、個別株や先物は取引所に繋ぐだけ、という個人投資家向けの証券業界ではレアな事象で、業者の腕の見せ所になります。

実際にどの程度ボラでプライスが変わるか、という話ですが、先程散々分析したUSDJPYのCallで、残存2時間の時点で、ボラを7%、8%の2種類で計算した場合、最大30円程度の差が発生します。業者によってはBid/Offerスプレッドが50円程度のところもあると考えると結構な大きさに。

 

顧客の損益状況の開示が必要

とは言え、結局「ボラの予想が難しければスプレッドを広げれば良い」となる訳ですが、それだと顧客が取引を避ける上に、月次の顧客の損益状況を開示する義務が業者にあり、勝ち過ぎていると顧客が離れる、という素敵な状態となっています。なので業者としては「スプレッドは狭く、ボラは正確に当てる」という至難の業を強いられます。

www.ffaj.or.jp

※上記サイトから各社の顧客損益の開示に飛べます。

 

業者側のプライシング戦略を考える

ボラを予想する

他のオプションであれば、市場で取引されているオプション価格からボラを逆算する(インプライド・ボラティリティ。以下、IV)ことで、それを使えば複雑なオプションでも対応できるものの、基本のIVが無いので一から予測する必要があります。

各社共に基本となるのはヒストリカル・ボラティリティ(以下HV)でしょう。勿論HVには色々問題があるので対処が必要です。

1.必ず遅行する問題

ここでの”遅行”は回号中に突発的な政治イベントが発生した(某国のミサイル発射や、某国大統領のTwitter上での爆弾発言等)場合の遅行ではなく、数日に亘る株価の大幅下落のような、もう少し長い目で見た話です(前者は基本的に対処不能)。移動平均線が価格に遅行するのと同じと考えて良いです。

2.予定されているイベントすら反映できない問題

あくまでHVは過去の変動から計算するので、IVでは対応できている将来の予定されているイベント(選挙、FOMC等)を織り込めません。

3.スマイルカーブを考慮できない問題

オプション市場ではOTM程IVが高くなるスマイルカーブが形成されますが、HV単体だとそれが反映できません(一つの原資産に対して一つしか値が出ないので)。テールリスクを別途HVに加算して調整する必要があります。

 

対処法

1に関してはやや期間の長い話なので、やはり若干遅行するもののHVよりは有用なIV(期近のもの)を参照して加減することで対応することが出来そうです。2についても同様。ただ、例えば今週末に大きな選挙があるとして、それで火曜の午前中の東京市場のボラが上がるか、と言えばそうはならないので、逆に使い勝手が悪いケースも結構あります。

3に関しては、HVをATMのIVとみなすことで、どうにか期近オプションのスマイル形状をHVに加減することで多少の再現は可能でしょう。

 

経済指標の発表に備える

業者にとって突発的政治イベントは無理ゲーとしても、投資家側にとっても事前には予測不能なので対処を放棄するのも一手ですが、経済指標は予定されているイベントなので確実に対応が必要です。

基本的には過去に発表されたタイミングの前後でどの程度動いたかを集計して、それを基にボラを予測する、という流れになるかと思いますが、正直限界があります。そもそも原資産側のスプレッドも発表直前は拡大するので、多少のスプレッド拡大はやむなしか。

 

BSモデルの限界をスプレッドに反映する

スプレッドの基本はヘッジコストなので(FXで言えばカバー先銀行のBid/Offerスプレッド)、デルタヘッジの期待コストがバイナリーのスプレッド計算の基礎になるかと。ただ、BSモデルではボラは満期まで一定と定義しているものの、途中に経済指標やロンドンオープン、NYオープンを挟んだりすると、とても一定という設定には無理があります。その限界(ボラの乖離ないし変動による理論価格乖離)をスプレッドとして反映することで対処出来ます。また、前述のHVの限界もここで多少調整することになるでしょう。

 

投資家側の分析の方法

商品と敵が分かったので、そこから戦略を立てる上で必要となる分析の方法を考えます。

Excelで理論価格を計算する

理論価格は前述のようにバニラのDeltaを計算して、そこにペイアウト金額をかける訳ですが、Excelで関数を自作すると色々と楽です。コードは別の記事に書いたので参照下さい。

Excel関数でバイナリーオプションの理論価格とGreeksを算出する方法 & IVの逆算方法

 

 業者のプライスからIVを計算する

これまた具体的なコードは上の記事に載っています。ここに書けよ、という話ですが、「見たまま記法」で書いていたので、シンタックス・ハイライトを途中から入れられないことに気付き、分けました(おい)

業者プライスに関しては過去データはほぼ手に入らないので、せっせと自分でExcelに貼り付けるなりして保存し、ある程度量を貯める必要があります。

 

…長い。とりあえず第一弾はここで終わりにして、次回は具体的な手法の話に入ろうかと思います。

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