デリバティブ偏愛家の日記

スマイル調整済みデルタのすすめ

最初、「まだ非スマイル調整済みデルタで消耗してるの?」という題名にしようとしたのですが、とんでもなく語呂が悪いのでやめました。

 

オプションを買って先物でフルヘッジするガンマロング(ダイナミックヘッジ)をやっている時に、微妙に想定しているPLと実際のPLが合わないケースがありませんか?筆者も昔やらかしましたが、デルタだけ見て先物の枚数を決めると、スマイルカーブの影響できちんと原資産価格の上下変動に対して均等にPLが出ないことがあります。

 

数値検証

簡単な例を用意します。現実のマーケットデータに近いものを使用していますが、あくまで仮想です。

  • 原資産:日経平均
  • オプション:Call 11月限
  • 権利行使価格:21,125円
  • 現時点(10/26)の原資産価格:21,185円

大体ATMくらいのCallですね。

 

ポジション構築

これを10枚買って、日経ミニ先物でデルタヘッジします(正確にデルタを合わせたいので、オプションは多め+先物はミニを使用しています)。

Lot Delta
Call 10 5,307
Future -53 -5,300
Net 7

デルタは53%程で、ほぼ全て先物で打ち消しました。

 

原資産変動後

ここで、原資産が21,375円まで上昇したとします。ここでは時間経過とIV変化は無しと考えると、オプションのPLは以下のように計算出来ます。

Option PL = Delta × 原資産価格変動 + 1/2 × Gamma × 原資産価格変動^2

で、Deltaの方は先物で誤差1%未満までヘッジしているので、本来Gamma分が完全に収益になるはずです。手元の自作シミュレーターでは52,858円の利益となっています。

 

スマイルカーブの影響は?

ここでスマイルカーブの影響を加味します。下図は10/26引け値のデータ。

カーブを見ると、21,125円で30.8%程度だったIVが、21,375円だと29.4%まで低下しています。原資産価格が実際に21,375円になった時点でIVが29.4%になるとは限りませんが(後述)、仮にそういった変動をしたとすると、Vegaで負ける分を調整する必要があります。

Option PL = Delta × 原資産価格変動 + 1/2 × Gamma × 原資産価格変動^2 + Vega × IV変動

Vegaまで考慮した状態でPLを計算すると、-174,895円という損失になりました。

 

逆に原資産価格が下落した場合はIVが上昇し、Vegaで利益となる想定になります。ということは、きちんと原資産価格の上下によるPLをデルタヘッジで打ち消せていませんね。

 

スマイル調整済みデルタの計算

上の例で分かるように、スマイルカーブの影響を考慮すれば、より正確なデルタヘッジが可能になります※。こうして計算したデルタが「スマイル調整済みデルタ」です。

スマイル調整済みDelta = Delta + Vega × カーブ変化

この「カーブ変化」は実際のスマイルカーブから、ATMを中心に原資産価格が変化した時のIV変化を用いて計算しますが、勿論原資産価格の水準や時間経過、カーブ自体の変化等、色々なパラメータの影響で変化するので、適宜再計算が必要です。

※特に株のようなスマイルカーブが右肩下がりのアセットでは顕著に乖離が発生しますが、カーブが左右対称に近いアセットの場合は考慮しなくても大きな問題にならないケースもあります。

 

注意事項

あくまでここで紹介した計算方法は特定の市場の状態に依存しているので注意が必要です。スマイルカーブ自体の変動には3パターン(ボラティリティ・レジーム)があり、

  1. スティッキー・ストライク:原資産価格の変動に対して、カーブが動かない(カーブ上をスライドするイメージ)
  2. スティッキー・デルタ:原資産価格の変動に対して、カーブが同じ方向にスライドする
  3. スティッキー・ツリー:原資産価格の変動に対して、カーブが逆の方向にスライドする

このうち1のスティッキー・ストライクの場合に有効な手法で、2の場合は逆に普通のデルタ計算方法がより正確になります。これらのレジームは時系列的に変化するので、恒常的に同じ状態が続く訳ではないのも要注意です。

 

詳しく知りたい方は

メインは別の内容ですが、日本語でスマイル調整済みデルタやレジームに簡単に説明されている論文もあるので、一読をオススメしています。

確率局所ボラティリティ・モデルのもとでのヘッジ戦略:最尤経路を利用したバリア・オプションの静的ヘッジ

 

実際の相場でのボラティリティ・レジーム分析はこちら(本家です)。

Regimes of Volatility   Some Observations on the Variation of S&P 500 Implied Volatilities

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