デリバティブ偏愛家の日記

ダイナミックヘッジのヘッジ調整間隔について

どうも。最近は「理屈は分かっているが、実際に数値で見るとどうなのか」というところをちょこちょこ掘り下げていますが、今回もその一環です。

オプションを買って先物でデルタヘッジするダイナミックヘッジを行う場合に、どういったタイミングでデルタを調整するか、という話ですが、今回は特に「単純に一定間隔で都度デルタを0にする」というオペレーションをやる場合に、観測間隔(ヘッジ調整間隔)の設定とPLや全体のリスクがどう変化するかを、実際の数値で見て行こうと思います。

 

前提

以下の条件でシミュレーションしていきます。

概要

  • ポジション構成:ATM Callロング+先物ショート
  • 原資産:仮想資産(USDJPYっぽい何か)
  • 権利行使価格:100円
  • 先物のサイズ:オプションの1/10の相当(日経平均オプションと日経平均ミニ先物の関係と同じ)
  • 金利:0%固定
  • 残存期間:20日
  • 購入時点でのオプションIV:6%(年率・固定)

今回は初期にCallを買ってから満期まで保有し続ける想定なので、期間中のIV変動は無しとして考えます。なのでThetaとの闘いですね。

 

原資産価格の変動

4つのパターン(モデル)を用意します。いずれも初期時点では100円、20日間を2,000の区間で分割し、各区間で乱数を発生させて原資産価格の変動を再現します。土日は面倒なので考慮しません。

A.ドリフト項0のウィーナー過程(ボラ6%)

年率6%の標準偏差で動くブラウン運動のみで構成された変動モデル。一番オーソドックスな形。オプションのIVと値動きのボラが一致しています。

B.ドリフト項0のウィーナー過程(ボラ8%)

Aと構造は全く同じですが、ブラウン運動のボラを8%に上げたモデル。オプションのIVを常に上回るボラに。

C.ドリフト項ありのウィーナー過程(ボラ6%)

各区間で0.001%ずつ上昇するドリフト項を入れたモデル。強烈なトレンド相場に近い感じ。ブラウン運動部分はAと同じ。

D.ドリフト項0のウィーナー過程+ジャンプあり

ジャンプ(急な値飛び)を組み込むモデルはきちんとしたものがありますが、今回はシンプルに5%の確率でブラウン運動が5倍に増幅される、という変動モデルにしました。ジャンプの影響で全体のボラが上がってしまうので、ブラウン運動の標準偏差を4.4%に下げています(これで全体だと6%)。

E.ドリフト項0のウィーナー過程+ボラ時系列変動

ブラウン運動のボラティリティ側も年率25%で変動するモデル。確率ボラティリティモデルに近いですが、原資産価格の変動とボラの変動の間の相関は一切設定せず、かつボラ側の変動もシンプルなブラウン運動となっています。結果的に高ボラの期間と低ボラの期間が生まれます。乱数でボラも変動するので、何回も生成させて全体の原資産価格変動ボラが6%近くになったパターンを採用します。また、あくまでオプションのIVは6%のまま固定。

X.サインカーブ変動(おまけ)

現実の市場ではあり得ない変動ですが…100円スタートで周期の異なるサインカーブの合成で原資産価格が動くモデル。

実際に生成した結果が以下となります。分かり難いですが、Dはたまに急な動きが見られ、Eは区間1,000付近から高ボラになっています。今回は特に満期前ATMでの動きをメインに見たいので、意図的に100円近傍で終わるパターンを採用しました。

 

Eだけボラティリティも変動するので、別のグラフを用意しました。原資産価格のブラウン運動に使用されたボラはほぼ6%以上の水準で推移していますが、最終的に生成された価格のボラを計算すると約6%になっています。

 

Xはあまりにぶっ飛んでいるので完全に別にしました。

 

ヘッジ調整間隔

2,000区間のうち、調整間隔に該当するタイミングでのみヘッジ調整の判定を行います(それ以外のタイミングでは何が起きても放置)。また、ヘッジ調整のタイミングでは四捨五入したデルタを打ち消すように先物のポジションを変更します(勿論枚数の都合上誤差は残りますが)。調整間隔は以下の7パターンで、区間数1というのは全区間で調整判定を行い、区間数100というのは区間数が100の倍数になった時のみ判定を行う、という意味です(つまり全体で2000÷100=20回判定する)。いずれも初期時点ではヘッジ処理を行います。

また、20営業日を2,000区間に分割しているので、一応調整間隔を分でも表示(驚く程微妙な間隔になってますが…)。

区間数
P1 1 14
P2 2 29
P3 5 72
P4 10 144
P5 25 360
P6 100 1,440
P7 500 7,200

 

検証を前に確認

一応間違いが無いか、原資産価格変動モデルはA、ヘッジ調整間隔はP1のみ簡単に確認します。

原資産価格変動とヘッジ取引

左軸がヘッジ取引の枚数、右軸が原資産価格です。Spotの変動に対して逆張りになるように取引出来ています。満期付近で100円に戻ってくることもあり、最後はかなり高速で売買している模様。

 

プレミアム変化と先物決済損益

一応Spotが下落する局面で先物の利食いが出来ているようです。

 

結果

先物側の決済損益と先物・オプションの評価損益を合計した総合損益ベースで見ていきます。グラフはいずれも左軸に各調整間隔毎のパフォーマンス、右軸に原資産価格変動をプロット。

一応最終損益(Net PL)以外に、期間内の最高収益(PL High)と最低収益(PL Low)、期間中の総合損益自体の標準偏差(PL Vol)も計算しています。また、先物の取引回数(Trade num)と全取引数量(Lot)も表にしました。

 

モデルA ドリフト項0のウィーナー過程(ボラ6%)

P1 P2 P3 P4 P5 P6 P7
Net PL -0.01 0.01 -0.02 0.03 0.04 -0.05 -0.14
PL High 0.06 0.07 0.06 0.08 0.17 0.17 0.13
PL Low -0.01 -0.01 -0.02 -0.01 -0.00 -0.05 -0.14
PL Vol 0.02 0.02 0.02 0.02 0.04 0.05 0.04

 

P1 P2 P3 P4 P5 P6 P7
Trade num 47 43 31 24 21 11 5
Lot 57 55 42 41 35 23 17

全区間においてはIV = HVとなるので、最終損益はほぼ0近傍となりました。調整間隔が極端に広いP6、P7では満期付近でほとんどヘッジせずに放置することになるので、PLがかなりSpot(原資産価格)変動と近い形になっています(今回の例では大きな損失になりましたが、理論的には逆もあり得ます)。PL Volは想定通りヘッジ間隔の広いP6、P7では高い水準になっていますが、軒並み満期直前となる区間1,900以降はセータで強烈にやられていますね…

P1はP7対比で500倍も調整タイミングが多い訳ですが、全取引数量で見るとP1はP7の3倍程度で収まっているのは興味深いです。また、乱数生成で作ったSpot変動なので、区間内でどうしてもボラの高い局面と低い局面が発生していますが、やはりボラの高い期間では収益が改善しています。

 

モデルB ドリフト項0のウィーナー過程(ボラ8%)

P1 P2 P3 P4 P5 P6 P7
Net PL 1.15 1.25 1.40 1.10 0.97 0.44 -0.25
PL High 1.15 1.26 1.40 1.10 1.04 0.87 0.44
PL Low -0.01 -0.01 -0.01 -0.01 -0.01 -0.04 -0.30
PL Vol 0.30 0.34 0.37 0.28 0.28 0.22 0.11

 

P1 P2 P3 P4 P5 P6 P7
Trade num 122 114 90 60 36 15 5
Lot 140 138 130 96 68 36 14

ぱっと見、HV6%と8%で原資産価格の動きにそれ程大きな差があるように見えませんが(どちらも満期時点で100円に戻るところも同じ)、PLは全く別世界ですね。放置し過ぎなP7以外の全てで大きな利益が出ています。P1~P5辺りでは最終損益に大きな差は無いので、ここまで来ると取引コストの勝負になりそうです。

 

モデルC ドリフト項ありのウィーナー過程(ボラ6%)

P1 P2 P3 P4 P5 P6 P7
Net PL 0.05 0.06 0.07 0.07 0.07 0.10 0.30
PL High 0.06 0.07 0.07 0.07 0.08 0.10 0.31
PL Low -0.02 -0.02 -0.01 -0.01 -0.01 -0.01 -0.02
PL Vol 0.03 0.03 0.03 0.03 0.03 0.04 0.11

 

P1 P2 P3 P4 P5 P6 P7
Trade num 6 6 6 6 5 5 3
Lot 10 10 10 10 10 10 10

P7はちょうど放置した方向に相場が動いただけで、特に意味のあるデータではないです。P7以外は序盤の微妙なトレンド局面では収益化出来ず、その後区間500~900の停滞でセータにやられるも、その後のトレンド相場で収益を伸ばしています。区間1,100以降はオプションのデルタが四捨五入で1となり、先物で完全にヘッジするので収益変動が皆無に。

ちなみに、あくまで値動きの標準偏差は6%で、トレンドというものがボラティリティ計算に与える影響の少なさと、逆にPLに与える影響の大きさがよく分かります。ここについて語り始めるととてつもないことになりそうなので、次に進みます。

 

モデルD ドリフト項0のウィーナー過程+ジャンプあり

P1 P2 P3 P4 P5 P6 P7
Net PL -0.07 -0.06 -0.10 -0.10 -0.19 -0.18 -0.10
PL High 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.02 0.09
PL Low -0.10 -0.09 -0.13 -0.13 -0.19 -0.18 -0.10
PL Vol 0.02 0.02 0.03 0.03 0.05 0.05 0.04

 

P1 P2 P3 P4 P5 P6 P7
Trade num 12 12 8 8 6 5 4
Lot 16 16 12 12 10 10 10

さて、やや現実の相場に近い値飛びのあるモデルですが、値飛び以外のボラが低い影響で壊滅的なPLとなっています。肝心の値飛びも大して収益に貢献しておらず、ちょっとこれはイメージしていたものとは違う結果になりました。ヘッジの調整回数も妙に少ないのが気になります(これは恐らく値飛び以外の低ボラの影響)。

 

モデルE ドリフト項0のウィーナー過程+ボラ時系列変動

P1 P2 P3 P4 P5 P6 P7
Net PL -0.07 -0.07 -0.05 -0.12 -0.12 -0.15 -0.21
PL High 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.07
PL Low -0.14 -0.14 -0.14 -0.14 -0.14 -0.21 -0.22
PL Vol 0.04 0.03 0.04 0.03 0.03 0.04 0.05

 

P1 P2 P3 P4 P5 P6 P7
Trade num 38 34 28 20 15 8 4
Lot 44 42 40 30 24 18 10

より現実の相場に近いモデル。想定通り、序盤の低ボラ局面では調整間隔問わず悲惨な状態です。後半でボラが上昇してくると、P1~P3辺りの短期調整型はPLが改善しています。P7は流石に間隔が広過ぎるようで、ほとんどヘッジ誤差だらけになってますね…

 

モデルX サインカーブ変動(おまけ)

P1 P2 P3 P4 P5 P6 P7
Net PL 5.0 5.8 8.4 14.8 33.3 6.6 -0.1
PL High 5.0 5.8 8.4 14.8 33.3 13.6 5.4
PL Low -0.0 -0.0 -0.0 -0.0 -0.0 -0.0 -0.2
PL Vol 1.5 1.7 2.4 4.0 8.9 2.6 1.5

 

P1 P2 P3 P4 P5 P6 P7
Trade num 172 141 91 63 40 10 5
Lot 206 206 210 208 206 54 14

完全にネタ枠と思われがちですが、ここで確認したかったのはサインカーブの周波数と調整間隔の関係です。値幅で言えばかなりの動きになっているので、単純に考えるとモデルB(高ボラ)の時のように、調整期間が短い方が良い感じに収益を積み重ねそうですが、今回はそうはなりません。ポジション調整のタイミングとサインカーブの周期性が最も近いP5が大きな利益となり、逆にこの動きでも周期を無視して小刻みにヘッジを調整してしまったP1、P2辺りは大した収益になりませんでした(絶対値としては大きいですが)。

 

総括

  • 満期まで保有する場合、ATM近傍だと満期付近では15分間隔ですらヘッジの誤差が生まれる
  • ジャンプはあまり収益に貢献しない(これは今回の原資産価格変動モデル側がイケてなかった可能性あり)
  • 肝心のヘッジ調整間隔については、P1~P4(約15分~約2.5時間)で大きな変化は無し

特に3点目についてはもう少し掘り下げたいですね。今回は原資産価格変動モデルで色々なパターンを用意しましたが、いずれもP1~P4で大きな差が見られなかったので、次回はモデルAだけで何千回かシミュレーションして、その結果を統計的に分析してみようかと思います(ただし、気が向いたら)。

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