デリバティブ偏愛家の日記

銀行の運用部門のお仕事 第5話「ノックアウトは突然に」

前回(かなり前)、最後に「次回はカレンシースワップか…」と書いたものの、カレンシースワップの商品紹介で終わりだし、何よりつまらないので、為替デリバティブに変更してお送りしようと思う。「為替デリバティブなら面白いのか」というツッコミはあるけれど…

概要

「運用部門のお仕事」と言いながら、別に銀行として為替オプションのポジションを積極的に取ってディーリングしていた、という訳ではない。その辺りは銀行によって方針がまちまちなので何とも言えないが、リーマン後の規制で自己資金を使ったトレーディングはかなり難しくなった模様。

「じゃあ何やるのよ」という話だが、基本的には顧客に為替デリバティブの取引してもらうよう営業し、銀行としては手数料(実際に表面的に「手数料」として計上されないケースが多い)を貰うセルサイドとしての業務はある。”顧客”というのは個人も法人もあり、例としては以下。

  • 個人:為替関連の仕組預金
  • 法人:為替リスクヘッジ

特に個人は、投信のようなストレートな形でオプション等を提供していることはないので、窓口に行って「3ヶ月後満期 USDJPY Call 114円を買いたいです!ちぃたん☆ですっ☆」と伝えても取引出来ることは無い。

客が分かれるように営業部隊もそれぞれ分かれており、個人向けは店舗の窓口で、法人向けはデリバ営業の担当者が存在する。

大まかな流れ

上図は対法人のケース。「客がもう倒産しているのでは?」とか「営業が怪し過ぎる」といった真っ当な指摘をしてはいけない。

“営業さん”は為替デリバの専門部隊だったり、普通の融資関連の法人営業だったりと、そこは銀行次第。前者は為替デリバ自体のニーズを掘り出して来たり、デリバに詳しいので細かい商品設計の話が出来るが、後者がいないとそもそも新規顧客が増えない。顧客の相場観に合わせたストライクの設定や、顧客の輸入・輸出に伴う外貨の出金・入金タイミングに合わせた満期の設定等、大よその骨格は共通でもほぼオーダーメイドで条件を決めていく。ただ、営業部隊は常に顧客と向き合っており、新商品の開発等に手が回らないので、そこにはサポート役がいる。

この辺りも銀行次第だが、「ストラクチャラー」は顧客ニーズに対してどういった商品設計にするか(例えばオプションのストライクをどこに置くか、ノックイン条件を付けるか、Call、Putのレバレッジをどうするか、等)をメインに考えたり、新商品の開発を行ったりする。「クオンツ」は更に現場から遠く、「この商品の理論価格を求める方法は何か?」といった金融工学周りの分析をして新商品開発のサポートを行う。

こうして倒産しかけている企業の為替リスクをデリバでどのようにヘッジするか、営業側から提案した結果、見事約定となった場合、原則銀行との相対取引なので、銀行はその逆サイドのリスクを負うことになる。トレーダーはインターバンク市場にてヘッジを行うことでリスクを管理していく。

ここでのリスク管理として、複数のポジションをネットして残存リスクをスポットやオプションでカバーする方式や、個別の案件を全てそのままカバーしてしまう方式がある。

因みに対個人の場合、為替の仕組預金となる訳だが、これは大体ある募集期間が決まっていて、その間の約定は全て同じ条件となるため、むしろそれをひたすら売り込んでいくのが支店営業の仕事。本店に営業統括みたいな部署があり、そこがストライクを決めたり、通貨毎にキャンペーンを打ったり色々企画していく。

法人向け取扱デリバティブの種類

…と言っても面白いのはオプションが絡むものなので、以下はオプション絡みのものだけ。

  • プレーン・バニラ
  • シンセティック・フォワード

最もシンプルなパターンだと、輸出企業であれば外貨で売上が入ってくるので、外貨下落リスクに備えたPutの買いとなる。ただ、これだと外貨上昇時の利益はしっかり享受するので支払プレミアムがかなり高くなるため、Put買+Call売のシンセティック・フォワードの方が安く済む。特に後者は完全に為替レートが固定されるため、為替変動による収益のブレが無くなるので事業計画を立て易いというメリットがある模様。

シンセティック・フォワードで組む場合、これは銀行にもよって変わるようだが、基本的には悪意に満ちた表現をすれば「若干不利な条件(ネットでプレミアムの受けになるポジション)で組まされる上に、本来貰えるはずのプレミアムが銀行にごっそり持って行かれる」という構図になる。この後ヘッジ取引にて銀行側はプレミアムを受け取るので、それが銀行側の組成手数料となっている。逆に言えば客からすれば表面上取られる手数料は無い。

(あまりに文字だらけでつまらない記事なので、無関係な写真を載せました。)

勿論競合他社との競争がある訳で、例えば輸出業者の場合、外貨売りの固定レートが下がれば下がる程、不利な条件になるので銀行が受け取るプレミアムが大きくなる(利益大)が、それでは他行に負けるので、どこまでレートを上げられるかの勝負になるが、実際には後述するようにシンプルなシンセティック・フォワードではなく、ノックアウトやデジタルが追加された複雑怪奇なポジションとなるので、そこまで単純な勝負になるとは限らない。

そもそも単発じゃない

普通にトレーダーが相場観に基づいてトレードする場合、「USDJPYは年内114円を超えないだろうから、その辺り満期のCallを売ってみるか」等と考えるが、事業法人の場合、毎月コンスタントに外貨ヘッジニーズが生まれるので、これを毎回契約していると煩雑過ぎて発狂してしまう。そのため、「毎月5日満期のUSDJPYシンセティック・フォワードを5年分(計60個の子取引発生)」というようにまとめて取引するのが一般的。

Call・Putの取引比率の変更

シンプルなシンセティック・フォワードでは、Call、Putの取引量は1:1だが、ここを変更することでレバレッジをかけた取引が可能になる。勿論綺麗な固定レートでは無くなるので新しいリスクを負うことになるが、特に売りを増やすと条件が有利になる分、レートが改善するというメリットがあり、そこは客次第。

ノックイン、ノックアウトの追加

これにも色々な種類があるが、「満期のタイミングで一定以下のレートになっていないとオプションが一切行使されないヨーロピアンノックイン」や、「期間中に一回でもそのレートに達するとその後のオプションが全て消滅するアメリカンノックアウト」等様々。というかカオス。ノックアウトの水準は契約の最初2年はこのレート、後半3年はこのレートというように期間に応じて変化するタイプや、そもそも「このx年の間は観測対象外」等バリエーションが豊富過ぎて売ってる側も訳が分からない顧客のニーズに的確に応えられるようになっている。ここまでカオスになるのは「他行で別のオプションを契約したが一部はノックアウトで消滅したので、そこの穴埋めをしたい」等それなりの原因があるようだが、客側もどう煩雑なポジションを管理していたのか…

ノックアウトは客にとって不利な方向に設定されるケースもある。筆者が働いていた時期はアベノミクスでUSDJPYが大きな上昇トレンドとなっており、輸入業者のヘッジが連日のようにひたすらノックアウトしまくる事態が発生していた。笑って良いのか分からないが、契約当初だけかなり近くにノックアウトを付けた客の10年分のヘッジが一ヶ月でノックアウトして消滅したケースもあった。

デジタル(バイナリー)オプションの追加

個人投資家にも馴染みのあるデジタル(バイナリー)が組み込まれるケースもある。客側がどういった相場観なのか、筆者には伝わってこないが、特定のレートを超えると円貨での受取が発生する(=両替レートが改善する)というような特別な条件を追加できる。勿論この例ではデジタルは買いなので、平均的な固定レートはその分悪化する。

損益に連動する条件の追加

更に複雑化するとアメリカン・ノックインorノックアウト以外にも経路依存型のオプションを組める。TARF(Target Accrual Redemption Forward)と呼ばれる商品もこのジャンル。

例としては「毎月のオプション行使のタイミングでの、固定レートとスポットレートの差で計算される決済損益を積み上げていき、累積利益が一定以上となったら、その後の全てのオプションが消滅する」というタイプ。全然伝わらない…?積み上げる損益を利益側だけに限定したり、数量は無視してレートだけで計算したり、バリエーションは相変わらず多い。

単体で見ればただのヨーロピアンでも、累積損益を参照して消滅する可能性があるので経路依存型となり、プライシングやリスク管理の難易度は高め。そのため、漏れなく割高になってしまう点は注意。

個人向け取扱デリバティブの種類

(あまりに文字だらけでつまらない記事なので、無関係な写真を載せました。)

法人向けと比べるとかなりシンプルで、ほぼプレーン・バニラか、そこにデジタルを付ける程度。表面上は外貨の仕組預金となっているが、円貨仕組預金でも外貨レートを参照して外貨で戻ってくる可能性のある商品もここに含まれる。

契約も単発で、ほぼ「オプションを1回売るだけ」というものが多い。顧客は売り手なのでプレミアムの受取となるが、これは金利を上乗せする、という形で返ってくる(勿論若干手数料として抜かれているが)。デジタルは追加で売ることで利回りの更なる改善を企図している。

トレーダーの仕事

ここまでだと「運用部門のお仕事」ではなく広く「市場部門のお仕事」になるので、トレーダーの話に。

取引

自行でリスク管理をしていく場合、ネットのデルタやガンマ、ベガを見ながら、スポットやプレーン・バニラでヘッジしていくのが基本。普通は客がオプションの売りなので、こちらはガンマロング側となり、大きなショックに対して強い。そのため、長期のベガは放置するのが得策となることも。また、そもそもスプレッドである程度抜いているため、多少バラしてヘッジするだけでも薄利は残る。

次にフルヘッジ型の場合、顧客との最終取引条件は、カバー先の業者が出すプライスに依存することになる。勿論市場性商品なので、顧客と営業との間の商談がある程度まとまってから、実際にカバー先からプライスを貰うまでの間に市場が大きく動いた場合、当初の想定固定レートでは約定出来なくなるケースもあり、そこはスピード勝負。ただ、カバー先も複雑な条件のデリバを瞬時にプライシングするのは難しいので、先にある程度条件を伝えておく等の準備は必要。とは言え、我々やカバー先がどう準備していても、顧客も都合でのごたごたもあり、稟議書の最終決裁者が会議等で不在のため、最終的な約定とならずに暫く待たされることも。

リスク・ポジション管理

仮にフルヘッジでも、一応リスクとポジションの管理は必要となる(そうでないと金融庁様のお叱りをいただくことになる)。で、外部ベンダーが開発した統合リスク管理システムを使うのが一般的。結構な導入費用とライセンス料がかかるので、なかなか良いビジネスなのか参入業者は多い。以下は業者の例。

国内でもSIerでNTTや日本ユニシス、その他ちょっと意外なところでは新日鐵住金のグループ会社でも開発しているところがある。

個人的な感想としては使いにくい以外の何物でも無かった…(どこの業者とは言えないが)

余談だが、このリスク管理システム、運用部門だけでなく事務処理を行うバックオフィスや、リスク管理を行うミドルも使用する。特にミドルはリスク管理の肝となるイールドカーブに関して、どのデータを使うかを決める権限を持っており、会計報告等もそれらに準拠したデータで行われる。ただ、必ずしも市場の実勢と連動していないケースもあるようで、乖離した場所のポジションをひたすら持つことで、社内基準だと結構な利益が出ているように見えるという裏技を使うトレーダーもその昔はいたとか。

権利行使作業

毎月結構な数のオプションが満期を迎える。地味ながらも、満期の度にカバー先に電話して「行使します」「放棄します」と伝える仕事がある(ITMなら確実に行使するので、正確には決済金額の照合を行う)。何故か(?)ここも全くIT化されておらず、システムから出力されたデータを基にわざわざ電話でのやり取りが必要に。

満期は98%が東京15時なので分かり易いが、ノックアウトは時間を選ばず発生する。基本的に国内銀行なので夜間にノックアウトしてもそれに伴う処理は翌営業日に為されるが、流石に営業時間中は迅速に処理する必要があるので、別件で取引をやっている真っ最中にノックアウトされるとカオスになる。

おわりに

5回に分けて銀行の運用部門の仕事を紹介してきたが、今回で一応このシリーズは終わりに。電話取引を経験した最後の世代かもしれないので、その辺りは今後の変遷が楽しみ。今から就活する大学生等に僅かながら参考になれば幸いである。

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