デリバティブ偏愛家の日記

日経IV分析の見方

週次で更新している日経IV分析ですが、途中からデータを追加したりしているので、データソースや計算方法、簡単な見方等をまとめました(2018/10/27最終更新)。一応オプションを日頃から取引していない方でも分かり易いようにしたつもりです(当社比)。

 

データ取得元

日経平均オプション関連情報

日本取引所グループのサイトから、日次でオプションの引け値やインプライドボラティリティ(以下IV)をまとめたzipファイルをダウンロード可能です。

オプション理論価格等情報

「利用ガイド」のタブにある程度説明が書かれていますが、一応日経以外にも個別銘柄の有価証券オプションや、日本国債のオプションのデータも入っています。有価証券オプションが完全に過疎っていることが良く分かる資料になっています。

 

株価ボラティリティ指数

色々取得元候補がありますが、簡単に長期分を取れるのでInvesting.comを利用しています。会員登録をするとちょこちょこ口座開設を促すメールが来ますが、設定を保存出来るようになるので、面倒であれば登録してみると良いと思います。日経VIは妙に探しにくいのでリンクを貼っておきます。

※VIXはCBOE、日経VIは日経新聞のサイトからも取得可能です。

 

為替ボラティリティ指数

実はこれもInvesting.comで取れるようですが、筆者は金利の方の分析にも使っているので、CBOEのサイトからダウンロードしています。

Volatility on Currencies

 

ボラティリティ集計

以下で、具体的に日経オプションのIV分析に使うボラの計算方法等を記載していきます。

使用するデータ

  • 通常の日経オプションのみ(Weeklyは流動性が非常に低いので使わない)
  • 第一限月と第二限月のみ(それ以上先は限界集落)
  • ファイルに記載されているボラティリティをそのまま使用

3点目が重要で、あくまで取引所が計算・公表したデータをそのまま使っています。

 

デルタ毎に集計

スマイルカーブのプロット方法

オプションの権利行使価格毎のIVをプロットしたものをスマイルカーブと呼びますが、縦軸はボラで固定として、横軸を何にするか、いくつかパターンがあります。

  1. 権利行使価格
  2. マネーネス(権利行使価格÷原資産価格)
  3. デルタ

このブログの分析では3のデルタを使っています。1の権利行使価格はやはりメジャーで、特に取引所に上場しているオプションでは、取引所側が設定した権利行使価格が多くの投資家にとって共通の水準となる上、何より分かり易いです。JPXのサイトからダウンロード出来るデータも権利行使価格毎に行が分かれているので、この方法ならそのまま使えます。

ただ、満期が近づくにつれて満期までに到達し得る価格の幅が狭くなるので、仮に全く原資産価格が動かなくても、例えば少しアウトな状態のPutオプションが時間経過で結構なアウト・オブ・ザ・マネー(以下OTM)になってしまい、統計的にOTMになればなる程IVは上昇するので、本当にIVが上昇したのか、ただ時間経過で上昇したのか分かり難くなってしまうという問題があります。また、原資産価格も日々変動しているので、過去日のスマイルカーブと比較する場合にアット・ザ・マネー(以下ATM)が動くことで、カーブ自体が左右に動いて比較が難しいという問題も。

そこでデルタを採用する訳ですが、「横軸をデルタにしてプロット」と言っても若干伝わり難いので詳しく説明していきます。バニラオプションの場合、デルタは0~1の間の値を取りるので「%」で表記されることがあり、分かり易いところでATMはデルタが50%となります。この%はヘッジに使う先物の枚数を計算するのにダイレクトに使えますが、大雑把に「このオプションが満期時点でイン・ザ・マネー(以下ITM)になる確率」と考えても良いです。Call、Putにそれぞれ0~100%デルタがあり得る訳ですが、メジャーなところでデルタが5、15、25%となるオプションを分析の対象とします。デルタが固定なので時間経過の影響がほとんど無く(後述)、原資産価格が動こうが常にATMが中央に来るようなグラフが描けるようになります。

ちなみに、デルタによるプロットは取引所の無い為替だとメジャーな気がします(一応先物はCME等にありますが)。全て0~100%のデルタでプロット出来るので、異なる原資産のオプション同士のカーブを同一のグラフで比較することも可能です。日経とS&P500のスマイルカーブを比較したりすると面白いですが、面倒なので諸般の事情により記事にはしていません。

 

♪デリバティブ偏愛家の質問コーナー♪

さて、ここまでで色々と疑問が出てきたところだと思います。

何故OTMか?(40代 男性)

お気付きの方もいらっしゃるかと思いますが、5、15、25%デルタのオプションは全てOTMの状態です。これには理由があるのですが、元々オプションというのはOTMの方が買い手の支払いプレミアムが少なく(割安という意味ではないですが)、市場の流動性が圧倒的にOTMの方が高いためです。一応ITM側も「プット・コール・パリティ」が成り立つ以上、OTM側と乖離しないようなIVで取引されていますが、データの信頼性を考えるとOTM側が優先されます。

 

そんなにぴったり25%デルタのオプションがあるのか?(5さい 男性)

無いです(即答)。なのでここで少し作業が必要になります。25%デルタを例に説明します。

  1. JPXのデータにあるボラティリティを使って全権利行使価格のデルタを計算(ブラック・ショールズ・モデル、以下BSモデルの式で出せます)
  2. 全権利行使価格から25%に近い権利行使価格を上下2つ選ぶ
  3. 線形按分で25%デルタのボラティリティを計算

筆者は線形按分で計算していますが、更に精緻に計算したい場合はスプライン補間が有名です。また、このブログでは5%デルタより更にOTMとなる水準は分析対象としていませんが、その先はこういった外挿のモデルを使わないで線形で外挿すると爆死します。まあ流石に5%より外は流動性が極端に低く、モデルで計算したところで取引が可能かは不明ですが。

 

期先のデータをどう使うか?(2ヶ月 男性)

期先は流動性が低く、データの信頼性が低いので使えるとしてもATM近傍までかな、と考えているため、この記事ではカーブに関しては全て期近しか使っていません。反面、SQ近くになると5%辺りのOTMでかなりデータがぶれたり、クオートが無くなったりしますが…

期先も含めた分析をしたい場合は残存が30日(営業日ではなく)になるように期近、期先を按分するのが無難です。

 

分析の仕方

スマイルカーブの形状

株は典型的なリスク資産なので、「株ロング+Putでのヘッジ」がオプションを使うメインの戦略になります。なので基本的にPut側のIVが高くなる傾向にあり、”スマイル”といっても左右の唇の端が上がる”満面の笑み”になることはなく、左側だけが高いどこかの元総理大臣・現財務大臣の口のような形になります(毎回この人の顔を見る度に株のスマイルカーブが頭を過るのは筆者だけ?)。

株高が続いても上値が重いとCall側が下がり、Putはジリジリ上がる印象で、リスクオフムードになると一気にPut側を中心に跳ね上がり、更に先物が急落して上昇余地が出て来るとCallも若干上昇したりします。

ちなみにブラックマンデー以前は、原資産価格変動は正規分布に従うとしたBSモデルがそのまま使われ、どの権利行使価格でもボラティリティはほぼ一定で取引されていたようで、確率的に極めて低いはずの暴落を経験してから、「確率分布違うじゃねーか!!!」ということでスマイルカーブが見られるようになったそうです。実に恐ろしい話です。

 

RR(リスクリバーサル)

同じデルタ水準のCallとPutのIV差をリスクリバーサルと言います。

25%RR = 25% Call – 25% Put

これはスマイルカーブの表現の一つですが、カーブを時系列で分析しようとすると3次元になって面倒なので、RRを使うとチャートに出来るという利点があります。

一応「市場が織り込む将来の変動を表す」とされていますが、株が上がれば上がる程ヘッジのPutのニーズは増えるので、結果的にひたすらRRは株価の予想を外し続けるケースもあります。

 

BF(バタフライ)

これは記事には載せていませんが、分析手法としては有名で、スマイルカーブの表現の一つです。

25%BF = (25% Call + 25% Put) / 2 – ATM

式から分かるように、OTMの平均とATMの差を取ることで、”笑み”の度合い(確率分布の裾野の広さ)を表していますが、株のように右肩下がりのスマイルカーブの場合、大して意味のある分析とならないケースが多いです。逆に原油や一部の通貨ペアのように、きちんとATMを中心にCall、Putそれぞれが高い水準のボラになるアセットでは有用です。

 

期近IVと期先IVの差

基本的には「不確実性が高い」ことから期先の方がIVは高めになります。が、相場急変時にはこの関係が逆転するので「期先 - 期近」がマイナスになるケースもあり、リスクオフ収束にはこれがプラスになるかどうかが一つの尺度になります。

※平常時に期先のIVが高いのには色々な理由がありますが、BSモデルの仮定する原資産価格変動モデルに従うなら期先=期近が成り立つはずです。そうなっていないのは、前提であるウィーナー過程が現実の相場と乖離したモデルということでしょう。

 

HV(ヒストリカル・ボラティリティ)とIVの差

HVは統計的に高確率でIV以下の水準で推移しています。これもまた色々な議論があるところですが、IVがHVより高いのは「BSモデルが想定する確率分布より、実際の相場の確率分布が裾野が広いため」というのが簡単な説明ではないかと。急変時にはHVがIVを超えるケースがありますが、長期的にレンジ相場が続いてIVが極端に落ちるとHVがぬるっとIVを超えるケースもあります。また、HVは計算期間に応じてかなり数値が変わるので、きちんと自分が分析したい期間に合わせて設定するのがポイントです。

トレードに関しては、HVとIVの差はガンマロング/ショートのポジションのPLに直結します。ガンマロング時には、一日分に換算したポジション保有時のIV分以上の値動きが一日に無いとセータに負けることになります。